会津美里町情報発信人材育成の取り組みとして、「発信をする人を増やす」ことを目的として開催しているプロジェクト『会津美里町 まちの編集室』。セミナーでは、日本各地でその地域にある魅力を見出し、独自の手法で発信を行うゲストを招き、その視点を学びます。

第2回目のゲストは、台所研究家であり作家の中村優さん。キャリーバッグひとつで世界中を旅しながら、料理上手で美しいシワを持つおばあちゃんたちを探す中村優さんは、これまで3年をかけて世界15ヶ国で100人以上のおばあちゃんのレシピを集めてきました。料理を通して記憶をたどる。そこから見えてくるものとは?

「おいしい」は世界の共通言語

 

写真撮影:中村優

大学卒業後、ある編集者と料理人に出会い、好きなことを追求する彼らの人柄や自由な働き方に惹かれた中村さん。「お金はいらないので弟子にしてください!」とオファー。ふたりの師匠のもとで修行を積むことになりました。

師匠たちのもとを離れた後、料理のケータリングやライティングなどの仕事を受けながら暮らしていた中村さんは、ある日「生産現場を実際に自分の目で確かめてみたい」と旅に出ます。そしてさまざまな生産者と出会ううちに、自分が本当に良いと思ったものをみんなにも分かち合いたいと思い立ちます。そこでスタートしたのが、旅先からおいしい食材をおすそわけする『YOU BOX』でした。

「食材の背景を知ることで、よりおいしく感じるようになる」と中村さん。『YOU BOX』では生産者の物語を綴ったペーパーを添え、受け手がその感動を共有できる仕組みにしました。

ここでしか味わえない味

 

写真撮影:左/中村優、右/株式会社ディスカバリー号

『YOU BOX』の活動を続ける一方、旅先で美しいシワを持つおばあちゃんたちに魅せられて中村さん。素敵なおばあちゃんを見つけると、持ち前の人懐っこさで近寄り、台所にお邪魔して料理を教わるように。

「80歳以上のおばあさんは、戦争を越えて何も無いところから生み出して来たから、素材を活かす術を良く知っている。無駄がないし、知恵が詰まっているんです」

そうして、3年をかけて世界15ヶ国で100人以上のおばあちゃんの人生レシピを集めた『ばあちゃんの幸せレシピ』が生まれました。

『ばあちゃんの幸せレシピ』(木楽社、2016)

たとえば、岐阜県石徹白(いとしろ)に暮らす小枝子おばあちゃんから教わったのは、正月にいただく「ニシン鮨」。雪深い地域ならではのご馳走で、乾燥させた身欠きニシンを炊いた米、麹、鱠としっかり混ぜて桶に入れ、重石を載せて1ヶ月弱ゆっくり発酵させながら完成させます。

「ほんの少し山を下っただけで発酵の進み具合が変化し、おいしくならないそうです。レストランでは絶対に出て来ない料理ですが、そこに土地のオリジナリティがあると思って。ここでしか、この時季にしか食べられない味は強いコンテンツになります」

平凡の美しさ

 

これまで各地を飛び回ってあらゆる暮らしを見つめてきた中村さんですが、いつも心を動かされるのは「平凡の美しさ」だと言います。

「長野県の虚空蔵(こくぞう)に暮らす100歳のまさみばあちゃんを訪ねた時、『人生で一番楽しかったことは?』と聞いてみたんです。そしたら、『楽しかったことなんて一個もないわい』とおっしゃっていて。きっとこれまで苦労を重ねて来られたと思うのですが、何があっても平凡に日々を生きている。その姿がとても美しいと思いました」

料理を通して目の前にいる人の物語を聞く中村さん。「その土地に行かないと出会えない味や文化こそ、人を惹きつける魅力的なコンテンツになる」と言います。まずは、一人ひとりが日常の美しさに目を向けること。心が動いた瞬間に発信した情報こそ、会津美里町ならではの魅力として多くの人に届きます。

文:原山幸恵(tarakusa)